雑誌広告_07
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CES2020で発表されたP&G社のパンパース赤ちゃん見守りサービス。左から、専用おむつと赤ちゃんの状況を検知するセンサーデバイス、管理アプリ、見守りカメラ。センサーのバッテリーは(写真は筆者撮影)3カ月ほど持ち、おむつの配達時に無料交換可能速している。 この潮流は「情報のデジタル化から生活のデジタル化へ」と捉えることができるだろう。これまで、メディア業界にインパクトを及ぼしてきたのはPCやスマートフォンなどのスクリーンの中のデジタル化だ。しかし、いま世界で急速に進んでいるのは、スクリーンを飛び出し、生活空間の中のデジタル化であると言える。生活空間の中のデジタル化が進むと、企業と顧客をつなぐ接点が現在のメディアだけにとどまらず、コネクテッドなデバイスを通じて指数関数的に増えていく。筆者の所属するメディア環境研究所では、こうした時代を「多接点時代」と名付けている。 これまでは生活者はメディアを通じて情報を得て、それを記憶し、調べるといった行動をし、そのあと、実際に買う、使うといったアクションを行ってきた。昔から言われているAIDMA(アイドマ)に相当すると言えるだろう。生活者自身がひとつひとつのアクションを行い、ステップを進めてきたわけであるが、これからの「多接点時代」では、生活者をとりまく新しいデバイスなどでその接点が拡大し、生活の中においてその存在がさらに身近になっていく。例えば、今、ステイホームの影響で、イエという生活空間のありようが大きく変わりつつある。在宅時間の増加に伴い、イエは帰宅後の休息や団らんの場だけでなく、職場であり、学習の場であり、三食をとり、健康や衛生状態を整える場であり、といったように、イエは多機能化の一途をたどっている。そうした中で、スマート家電などの新しいサービスが浸透する素地が急速にできてきている。それらは、従来のメディアの概念を拡張し、今後、企業と顧客をつなぐ「多接点」のひとつひとつとなっていくだろう。出版業界にとって示唆に富む、海外企業での「多接点をつくりビジネスに生かす」取り組みをご紹介したい。CES2020で注目を集めたパンパースの赤ちゃん見守りサービス今年、多くの大規模ビジネスイベントが中止に追い込まれている中で、新型コロナウイルスの影響を受けずに開催された最大のグローバルコンベンションとなったものが、CESだ。毎年1月初旬に米国ラスベガスで開催されているこのテクノロジーの祭典を、筆者は数年にわたって定点観測している。今年、非テック企業であるトイレタリー企業によるデジタルトランスフォーメーションの一環という視点で注目を集めたのは、パンパースブランドによる赤ちゃん見守りサービスだ。P&G社がパンパースというおむつ製品を出すだけでなく、おむつにつけて赤ちゃんの状況を検知するセンサー、両親が別室でも見守ることができるカメラと管理アプリをパッケージにして提供していく、という新サービスの発表が話題となった。さらに子供の月齢にあわせた親向け育児コンテンツもアプリ経由で配信するという。このケースは、出版業界からみると、広告主自らが、自社のスマートプロダクト(この場合はおむつとセンサーデバイス)を通じて直接顧客とつながり、さらに顧客に必要なコンテンツまでも提供しているケースと言えるだろう。生活のデジタル化によって、「育児」という生活シーンに、必要な実用情報がごく自然に入り込んでいるのだ。今後、新型コロナウイルスの影響で多機能化していくイエにおいて、このような生活支援サービスは生活者の支持を集めていく存在となるだろう。 現在の私たちは、デジタルでの情報行動において、自分の手で毎回スマートフォンを持ち上げ、ロックをはずし、アプリを立ち上げて、なんらかのアクションをするという作業を繰り返している。しかし、多接点時代では、行動しているさなかに、情報が生活の中に入り込んでいく。今後、出版社の持つコンテンツが活躍しうる場所は、紙やスクリーンにとどまらず、生活空間の中に拡張していく可能性があるのだ。  44 4

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