雑誌広告_07
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Hammockb表紙イラスト 長場雄タイトルShare the Mo untai社の担当者は語っていた。 こうした「専門家とのマッチング」をビジネスにしていく動きは、何も海外だけではない。日本の出版社でも、多くのライフスタイル誌を手掛ける枻出版社グループのブランドコンテンツスタジオのピークス株式会社では、「n」というサービスの立ち上げを検討しているという。登山情報提供メディアの読者に対して、登山の上級者のガイドというある種の専門家をマッチングするサービスだ。雑誌に登場するような業界の「専門家」という資産を別のサービスに昇華しユーザーに提供している取り組みとして、筆者は注目している。新しい生活様式を模索する今、様々な生活カテゴリで「専門家」の声を求めるニーズは高い。すでに出版社が所有している専門家という貴重な資産で、誌面以外の場でどんな生活者のニーズが解決できそうか、棚卸をしたうえで、新しいビジネスにもつながる接点が広がっていきそうだ。今後、メディア企業が提供するメディア体験は、「直接、生活に作用する」必要がある。出版社には、これまでつちかってきた、会話、コンテンツ、コミュニティといった読者とのエモーショナルなつながりがある。しかし多接点時代では、その先が必要だ。会話や、コンテンツや、コミュニティでつながった先の出口が「実際に生活に作用するかどうか」、そのポイントをこれから設計する必要があると、筆者は考えている。さらに、広告においては、売るためのチャット、目を引き付けるだけのコンテン    a7ツ、囲い込むコミュニティ、そうしたやり方だけでは、生活者とつながれない時代がやってくる。新しい多接点において、会話、コンテンツ、コミュニティでつながった先に、生活者の「よりよい生活の実現」まで導く必要がある。生活者が自身ではできないことを直接的に、企業が後押しすることが求められていくだろう。 メディア環境研究所では、日本のメディア業界のプレイヤーと定期的にディスカッションを行っているが、先日、とある関係者が「今後2〜3年かけて進んでいくと思われていたデジタル化の波が、この数カ月で一気に進んだ。コロナはデジタルトランスフォーメーションを加速させる触媒だ」というコメントをしていたことが印象的だった。数年先の未来が、いま一気に押し寄せてきているのだ。新型コロナウイルスで変容しつつある社会の中で、事態が収束すれば人々の意識はある程度は元の状態に戻っていくだろう。しかし、テクノロジーがもたらした便利な生活体験は元には戻らない。いま世界で起こりつつある生活のデジタル化という大きな波は、間違いなく私たちの生活とメディ生活に作用するメディア体験が出版業界の強みとなるアのビジネスにインパクトをもたらしていくだろう。 今後、企業と生活者の間がどれだけ多接点になっても、そして多接点のデバイスからどれだけデータが集まったとしても、まずはその中で「生活に直接的に作用する関係」をつくることが生活者との継続的なつながりの起点になる。そこに存在できるプレイヤーとして、コンテンツをもつメディア企業は有利なポジションにある。 未来のメディア環境の中で、出版社が提供できる「多接点時代のコンテンツ」のあり方とは何か。紙面やスクリーンを飛び出し、どのように生活の中に作用させていくのか。先行している海外の他産業のケースの分析が、多接点時代をこれから迎える日本市場において、出版業界が次の強さをつくるヒントとなれば幸いだ。引き続き、この動きを私たちの研究所でも注視していきたい。

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