雑誌広告2020_08
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制約の中で創作するタイアップ小説には普段とは違う筋肉を使う楽しさがある─新刊『発注いただきました!』、まさに広告関係者必読という感じで面白く読ませていただきました。タイアップの文章にはどうしても制約が付きもの。本書に採録された発注書を見ても、かなりの無理難題が並んでいますが、朝井さんの場合、どの短編も楽しんで書いておられる印象を受けます。朝井 ありがとうございます。そう感じていただけたのなら作者としてすごくホッとします。前書きでも述べましたが、作家活動もある程度長くなると、事前に「これについて書いてください」と指定される依頼は減っていくんですね。内的必然と言うと大げさですが、基本は自分でモチーフを見つけないといけない。思ったことを書いて暮らせるのは幸せな境遇なんですが、夏休みの自由研究と同じで、常に「テーマは何でも大丈夫です」と言われ続けると─なるほど。─オファーを受けるかど準はありますか?朝井 一番はスケジュールです。小説の締切が重なっていたり、本業の筋肉をフル稼働させている時期はどうしても頭を切り換えるのが難しい。あと、これは一般的な広告の発想とは逆かもしれませんが、自分が露出しないこと。小説に加えて、例えば商品を手にした私自身の写真も掲載したい、イベントや動画広告にも登場してほしいと依頼していただくことがあるんです。それはお断りします。私の文章や、それを書く能力を見込んでオファーをいただけた場合は素直に嬉しいです。……。─縛りのなさが逆にしんどく思えてくる?朝井 はい。厳しいハードルを乗り越える作業で燃えたくなるといいますか。ガチガチに設定された条件をクリアしつつ自分なりのストーリーテリングを考える作業には、いわば、普段は使っていない筋肉をエクササイズするような面白さがある。そうやって書いた小説が、気が付けばけっこうな分量になっていまして。だったらそれで一冊作ってしまうのはどうかと。─それにしても、ここまでコンスタントに発注小説と向き合ってきた作家は珍しいのでは?朝井 かなり書いている方だとは思います、というより、あまり大っぴらにするものではないという考え方の人のほうが多いだけかもしれません(笑)。私は、本業が疎かにならない限り、今後もチャレンジしていきたいです。ただ、やっぱり適正なペースはありますね。あまりタイアップの仕事ばかり続きすぎると、それはそれで物足りなくなる気がします。─朝井さんなりの受注ペースがあるんですね。朝井 から10年で17冊の書籍を刊行しているので、単純計算で17対1くらいですね。本末転倒に陥らず、楽しみながら続けていくには、たぶんこのくらいがちょうどいいのかなと。─「普段使っていない筋肉」という表現も興味深い。例えば文芸誌に発表する作品や書き下ろし小説とは、具体的にどういう部分が違うのですか?朝井 ますが、自分で小説を書くとき、私は読者の層や属性みたいなものはあまり考えません。青臭いですが、そういったマーケティング的な発想より、やはり自分が本当に書きたいものを大事にしたい。その意味では、多分に独りよがりの作業と言いますか……。正直それがどんな仕上がりになるのか、自分でもやってみないと分からない部分があるんです。朝井 一方でタイアップのお仕事では、当然、届けるべきターゲットが最初から私の場合、デビュー決まっています。野球で言うと、構えられたミットに必ず収まるボールを投げなければいけない。発注内容によっては、かなりの変化球やクセ球を求められるケースも多いし、私自身の中にも「せっかくご依頼いただいたのに、当たり前のストレートじゃつまらない」という気持ちもあります。また受け手側にも「何だかんだ言って広告だから、最後はちゃんと着地するんで作家にもよると思いしょ」という安心感もあると思うんです。だからこそ思い切ってアクロバティックなフォームを試せたりもする。先方からお題をいただいて物語として成立させるという意味では、ちょっと落語の三題噺に近い感覚かもしれません。うかを判断する際、何か基4商品を礼賛するだけの 話を書いても意味がない

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