雑誌広告2020_08
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﹁ 10年分の寄せ集め﹂では申し訳ない朝井リョウの新刊として楽しめる工夫を─小説家としての「腕を買われる」感覚ですね。朝井 そうです。例えば銀行のCMでも、一般には名前の知られていないモデルさんが登場するパターンと、誰でも知っている著名な俳優さんを起用するパターンの両方がありますよね。前者では現実感や親しみやすさが強調され、後者ではその人が持っている知名度やパブリックイメージが重視されていて。それぞれ違う効果があるわけです。タイアップ広告の文章も同じで、無署名のテキストの方がより効果的に伝わるケースも少なくありません。私の場合は普段から名前を出して小説を書いているので、依─でも発注側の要望を満一つは単純に、物量頼されるクライアントさんも「朝井リョウの作品」を期待してくださっているのかなと。だからこそ、広告対象の商品やサービスを礼賛するだけの話を書いても意味がない。企画の趣旨はちゃんと理解しつつ、受け手の方に「なるほど、その手があったか」と楽しんでいただけることが重要なのかなと。それは常に考えますね。─プロとしてそこは譲れない一線なんですね。朝井 たまにヒネりすぎてしまうこともあって、クライアントさんの中には「四の五の言わずにもっとストレートに褒めろよ」と思われた方もいたかもしれませんが(笑)。幸い、今のところは何とかやれています。あまり頭を使わず、ただ何かを持ち上げただけの文章は、結局バレちゃうんですよ。少なくとも同業者が読めばすぐに分かる。─実際そんなケースもあったりしますか?朝井 そうですね。例えば毎年恒例のキャンペーン企画だと、参考資料として前年度分を送ってくださった─そういえば本書の「感想戦」で、同じ企画に参加された角田光代さんの作品があまりに素晴らしく、打ちのめされたと告白されていましたね。朝井 はい。冒頭に収めた森永製菓とアサヒビールの企画で二度ご一緒させていただきました。どちらも私には絶対思い付かない切り口でした。あと、やはり文章自体が本当に素晴らしい。自分の書いたものを顧みて、思わず赤面してしまったほりするんです。それを読んで「この人、楽してお金だけもらいに行ったな」と感じたことは正直あります。逆に「この人はタイアップでも決して手抜きをしない」と感動するケースも当然ある。例えば三浦しをんさん。どの媒体で書かれたものを読んでも、ファンを楽しませながら発注者も満足させる内容になっていて本当にすごいです。どです。言葉の使い方、組み合わせ方が巧みで、感激しました。たしつつ読者を最大限楽しませようとする心意気も、強く伝わってきました。本にまとめるにあたって特に意識したことは何でしょう?朝井 です。例えばミュージシャンの場合、CMとタイアップした楽曲をオリジナル・アルバムに収録するケースは普通にありますよね。ただ、さすがに新曲も入れると思うんです。この本も、タイアップ小説だけだと一編が短すぎたり、作品として物足りない部分があるだろうと感じたので、新作も書き下ろしたうえで「いっぱい入ってるから!」と叫ぼうかなと(笑)。デビューという側面もあったので、賑やかさは大切かなと。結果、担当の編集さんが再掲載の許可取りに奔走することになりました。大変そうでした。─クライアント側の反応はいかがでしたか?朝井 門前払いの可能性も覚悟していたのですが、どの企業の方々も寛容で、すべて快諾していただきました。これは編集さんの熱意が大きかったと思います。もう一つ意識したのは内容の構成です。たとえ分量が多くても、ただ単に10年で書いたタイアップ小説を寄せ集めたものでは意味がない。朝井リョウ名義の新刊として楽しんでいただける工夫が何かないと、買っていただいた方に申し訳がな『発注いただきました!』(集英社刊)510周年を記念したお祭り本

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