って自慢したい。そして、親たちの世代とは違い、(中国の人気観光地に付き物の)ズルや不正に自分で立ち向かい交渉するのは苦手なので、観光ブームに便乗した値上げや不正に対し地元政府が隅々まで管理してくれることに安堵し、淄博市民が一丸となってもてなしてくれることにも感動する。日本の若者にも通じるこんな柔らかい感覚を持つ若者が近頃の中国の若い消費者だ。新しい世代の彼らは日本人が一昔前から一般的に持ってきた「中国人」のイメージ─声が大きく、自分の利益は強気で守るたくましい姿─、ではつかみきれない。古いイメージがあてはまるのは、今の54歳以上[=「60後」(リョウリンホウ)]の人たちだろう。彼らは鎖国状態での文化大革命を体験、目撃し、貧しさも過酷さも経験した後、0度価値観が変化する中、「明日はもっと良くなる」と邁進し自分の力で生きて1 8きたからだ。 しかし、この世代の子どもにあたる今の若者世代は物心ついた頃から中国は発展の上昇期で、両親と祖父母6人の財布を持ち、彼らの期待を一身に背負って育った一人っ子世代だ。両者は生きてきた環境が別国並みに異なる。 中国の人を対象にインバウンド事業を実施するには、古いステレオタイプから抜け出し、急速に変化する今の多層な人々を認識するのが第一歩だろう。②「タ中イ国ミ速ン度グ」をでつかめ淄博市政府による地元プ 6ロモーションの成否を決めたのは、迅速な神対応だったと言っても過言ではない。市政府はポストコロナ期の空気と串焼きへの若者の反応をつかむと畳みかけるように、間髪いれずにアピールし全国のブームに火をつけた。日本であったら行政はもちろん、小規模の私企業でも真似できない速さだ。 神業レベルの速さが中国では可能な背景にはまず、最初から完璧を求めず「走りながら考える」メンタリティがあるだろう。一方、日本では「問題が起きたらどうする?」「完璧でないものを世には出せない」という生真面目な職人気質が裏目に出て、数々の斬新なアイディアや技術を塩漬けにしてしまい、革新のチャンスを逃してはいないだろうか? 中国の優先順位は明らかだ。まずは速く「やってみる」こと。そして「問題は走っていれば、出てくるもの」という常識が社会でも共有されているので、不完全さに対しても社会全体が寛容だ。新しいことは社会実装しながら不足点を改善するのだから開発速度は断然速い。 ほかにも、中国のマネジメント方法の違いもある。結果主義が浸透しているので上に対して「結果」の責任は負うが、途中の「ホウレンソウ」(=報告、連絡、相談)の義務はない。具体的な手段や経過での決定権は現場に一任されているのも速さの秘訣だろう。コラム 二極化が進む中国では、淄博の串焼きとは対極の高級路線の一環で和食の「OMAKASEおまかせ)」が流行している。中国版「食べログ」と言われるレストラン検索最大手の「大衆点評(Dianping)」では「OMAKASE北京」で3000軒以上、「OMAKASE上海」では約1万2000軒がヒットする。 中国のOMAKASEとは高級和食店のコース料理を指し、値段は1万円〜3万円と高価だが、この高さが逆に「普段は行けない」特別感を演出し人気だ。 ほかにも、鮑やナマコを出すキラキラした高級中華の廃れや、近年普及した健康ブームも追い風だ。若者の間では油っぽさ(中国語で「油 ・ヨウニ」)を「ギトギトした」中高年の象徴として嫌う空気がある中、日本料理は「文化的」で低カロリーで「爽やか」と位置づけられている。 ただ、23年8月24日の福島第一原発からの処理水放出以降は「日本産魚介類は危ない」という触れ込みが動画やSNSで一気に広がり、和食店の客足に影響がでている。一方で、中国のネットの話題と記憶の刷新速度は極めて速い。昨年のゼロコロナも人々の記憶からほぼ完全に葬り去られているように、9月初旬現在、今回の悪影響も「長引かない」と楽観視する声も聞かれる。 いずれにせよ、今回のケースはSNSや動画の影響は絶大で、世論は一夜で簡単に翻ることを物語っている。「中国速度」で豹変する中国リスクへの備えは怠れない。70年代末の改革開放で二極化で日本食の“OMAKASE”がブーム
元のページ ../index.html#6