雑誌広告2024_01
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雑誌協会の取材から/FIPP篠崎広道(光文社)吉田侑樹(ムサシノ広告社)是洞沙紀(文化企画)ヒントは■アナログレコードの復活?■読者データをもとにしたマネタイズの可能性立されたFIPP(国際雑誌連合)は、世界中の雑誌協会、出版社などが加盟する世界で最も古く権威のある国際的な組織である。今回スピーカーとして登壇したCEOのジェームス・ヒューズ氏からは、目まぐるしく変化する世界情勢、コスト高騰という状況下において、出版業界はマネタイズのための手段をいくつも開発しなければならないという課題と、最も重要な手段と1925年にフランスで設n』は釣ッチなジャンルの専門誌だ。発行部数は2万5000部に留まるが、読者の72%が船を所有するなど、その読者情報をもとに「カジキ釣り大会」を企画、「読者との体験、関係を所有する」イベントとして、参加料、入場料収入などで利益を生み出し、事業化しているという。イベントのほか、有料コンテンツやEC展開など、読者データをもとにしたマネタイズの可能性を示唆していた。出版産業に必要なことは、読者に向き合いながら、「多様性」を持った考えのもとに開発される事業展開だとジェームス氏は訴える。出版の枠に留まらず、各社それぞれが持つ読者との信頼関係の上に成り立った、オリジナルのマネタイズ方法を開発することが求められている。位置付ける広告収入の現状に  ① ついて話を聞くことができた。広告収入は2008年をピークに減少を続け、特にプリントメディアの広告費の落ち込みが激しく、2022年にはオンラインメディアの広告費に抜かれている。しかし、ヒューズ氏は以下のように主張する。「オンラインメディアの広告収入は収益性が低く、プリントメディアの最大値には及ぶことはないだろう。プリントメディア全体の発行部数は減少傾向だが、収益性にアドバンテージがあるので、それを捨てることはない」。このような状況において、ジェームス氏は「ひとつの産業がヒントになる」という。それは「音楽産業」だ。音楽産業は、出版産業とほぼ同じ1999年にピークを迎え、その後2014年まで縮小が続くが、現在は1999年と同等以上の規模まで回復をした。そこにはデジタルストリーミングサービスの成長とともに、「アナログレコードの価値向上、復活」という側面がある。出版産業も収益性改善のためにアナログ(プリント)がよりリッチなメディアとして価値を見直され、再定義されるべく取り組んでいく必要があると述べていた。出版産業を取り巻く環境が大きく変化していく中で、「AI技術の台頭」に対してジェームス氏は特に強い危機感を抱いていた。AI技術によるコンテンツに飲みこまれないためにも、常に時代の先を見据え、法的な規制・ルールの策定や信頼性のあるコンテンツを発信していくことが大切と訴える。同じ日に話を聞いたPPA(英国雑誌協会)も同様にAI化への危機感を持ち、コンテンツの「信頼性」を担保することの重要性を指摘していた。正しくファクトチェックを行い「ジャーナリズム」の価値を高め、よりプレミアムなメディアになることで、高いエンゲージメントが生まれるという。出版産業によるユニークなマネタイズ事例についても聞かせてくれた。スウェーデンの『Marliりを趣味とし、中でもトローリング愛好者を対象にしたニ出版産業の未来を握るカギとは?雑誌メディアの価値を再定義せよコラム イギリスFIPPのCEO、ヒューズ氏第56回JMAA海外研修団レポート変わらないものと 変わりゆくもの……山口 統吾(ADKマーケティング・ ソリューションズ) ロンドンを訪れてまず驚いたことは、古い建物の景色がずっと残っていることだった。住宅街はもとより、SO HOと呼ばれる洗練された街やブリックレーンといったカルチャーエリアでもだ。ここに建つ戸建てはほとんどが中古で、築120年で普通の部類なのだとか。SOHOにある百貨店「リバティ」やその周囲も同様の年数の建物が並ぶ。一方で、暮らしの仕組みは日本の数年先の姿を見ているようだった。キャッシュレスはどこでも当たり前で、公共交通機関のバスはなんと現金NG。 また、アビーロードの近くで見つけた文房具店はほこりをかぶったような店だったが、当然のようにクレジットカードリーダーで決済する。ブランドは伝統と革新によってつくられるというが、ロンドンという街はまさにそれを体現していた。守るもの、変えるものを見極めながら新しい仕事をしていきたいと思う、ロンドン滞在の日々だった。

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